11月歌会 とぽす会員作品・鑑賞

11月作品・鑑賞

【十 一 月 歌 会 の作 品 鑑 賞 】   朝 野 ク ウ ー

日 本 の秋 美 し いと く り 返 す 異 国 の人 と バ ス停 に 待 つ                 森 て い子
 異 国 の 人 と は 何 処 の 国 の 人 だ ろ う か 、四 季 の な い 国 の 人 か ら す れ ば 、広 葉 樹 が 赤 や 黄 色 に 染 ま る 「紅 葉 」 は 目 に も 鮮 や か で 魅 了 さ れ る こ と は 、大 いに 理 解 で き る 。私 の 場 合 は 、以 前 に 訪 れ た 中 尊 寺 の 紅 葉 が と り わ け 印 象 に 残 る 。バ ス 停 を 利 用 し て いる こ と か ら 推 察 す る と 、い わ ゆ る 観 光 で は な く 、日 本 で 仕 事 を し て い る 人 か 、留 学 生 で は な いだ ろ う か 。バス が 来 る ま で の 短 い 会 話 が 思 わ れ る 。

 つ ゆ だ く の 牛 丼 を 食 む 秋 の 夜 の 虫 の す だ く 1 D K に              梨 本 卓 也
 二 句 切 れ の 歌 。少 し 分 り に く い の は 、食 む が 連 体 形 で 「秋 の 夜 」に 掛 か る よ う に も と れ る と こ ろ だ 。そ こ を 改 め る に は 、「牛 丼 食 め り 」の 終 止 形 に す る の が よ いだ ろ う 。表 記 の 面 の 小 技 と し て は 、「つゆ だ く 」と 虫 の 「す だ く 」で 韻 を 踏 ん だ と こ ろ 。す だ く ( 集 く )= 鳥 や 虫 が 鳴 く 。作 者 の 生 活 が 垣 間 見 れ る 一 首 で あ る 。牛 丼 と 1 D K の つ つま し や か さ が 響 き 合 って い る よ う に 思 え て 切 な い。。

何 事 も 決 め ら れ る の か A I が 決 め る 姿 に 人 は 満 足                          若 柳  遊 心
 門 外 漢 の 私 に は 五 里 霧 中 の 世 界 だ が 、最 近 驚 いた こ と が あ る 。スマホ の LINE で の コメ ント への 返 信 コメント を 簡 単 な 内 容 だ が 「A I 」が 提 案 し て く れ る の が 出 現 し た 。た と え ば 、「次 の 飲 み 会 は 都 合 で 出 席 で き な い 」 と 来 た 時 の 返 信 案 と し て 、「気 に し な いで ね 。ま た 連 絡 し て く だ さ い」と か 、「残 念 で す 。み ん な に よ ろ し く 言 っ と き ま す 」と か 、何 案 か 出 て き ま す 。こ の レ ベル は 大 し た こ と は な いが 、科 学 は 無 限 に 進 歩 す る か ら 、ヒ ト が 処 理 で き る 情 報 量 な ど 目 じ ゃ な い。残 る は 感 情 の 世 界 ( 単 純 な 感 情 で は な く 、自 分 自 身 で も 理 解 ・意 識 し て な い無 意 識 ) に ど こ ま で 迫 れ る の か な の で は な いか 。

切 り 抜 き に 新 聞 記 事 を 読 み 返 す 天 皇 を 撃 て と 呼 ぶ 男 の               丹 取  元
 短歌 の 鑑 賞 か ら は 脱 線 す る が 、 こ の 事 件 に つ い て 以 下 、 項 目 ご と に 記 載 す る 。 ■ 天 皇 を 撃 て 一 九 六 九 年 一 月 二 日 、 皇 居 で 六 年 ぶ り に お こ な わ れ た 一 般 参 賀 で 、 奥 崎 謙 三 は 昭 和 天 皇 に 向 か っ て パ チ ン コ 玉 を 発 射 し た 。 昭 和 天 皇 が バ ル コ ニ ー に い た と こ ろ 十 五 メ ー ト ル 先 か ら ゴ ム パ チ ン コ で 3 発 発 射 。 球 は 外 れ て 、奥 崎 は 私 服 警 官 に そ の 場 で 逮 捕 さ れ た 。 結 果 、 暴 行 罪 で 懲 役 一 年 六 か 月 。 こ の 事 件 を 機 に 防 弾 ガ ラ ス が 設 置 さ れ た 。
■ 奥 崎 謙 三 ( お く ざ き け ん ぞ う ) 一 九 二 〇 年 二 月 一 日 ~ 二 〇 〇 五 年 六 月 十 六 日 、 旧 日 本 陸 軍 上 等 兵 、 バ ッ テ リ ー 商 、 ア ナ ー キ ス ト 、 不 動 産 業 者 刺 殺 事 件 、 皇 室 ポ ル ノ ビ ラ 事 件 、 旧 日 本 陸 軍 兵 士 の 死 の 真 相 を 追 求 す る う ち に 元 中 隊 長 ほ か 三 名 の 殺 害 を 決 意 す る 。 元 上 官 へ の 殺 人 事 件 で た び た び 服 役 。 ド キ ュ メ ン タ リ ー 映 画 『 ゆ き ゆ き て 進 軍 』 ( 原 一 男 監 督 ) に 出 演 。 自 ら を 「 神 軍 平 等 兵 」 と 称 し た 。

H O L D M E と 歌 う 7 0 代 今 君 は 青 春 時 代 に 舞 い戻 って いる           笹 谷 逸 朗
 人 は う れ し いに つけ 悲 し いに つけ 、ず っと 歌 を 歌 い続 け て き た 。人 に は 感 情 が あ り 、そ れ は 高 揚 感 を 常 に 伴 う も の だ 。歌 は そ の 時 代 の 匂 い・記 憶 を 常 に 纏 って いる 。 だ か ら 、人 は 歌 を 歌 う と そ の 歌 が 纏 って いる 記 憶 を 想 起 す る 、いや 想 起 さ せ ら れ る と 言 った 方 が 正 し い。特 に 多 感 で 夢 見 が ち な 青 春 時 代 は 、友 情 あ り 恋 愛 あ り 、絶 頂 感 そ し て 喪 失 感 な ど 、甘 酸 っぱ い経 験 の 宝 庫 だ 。そ こ に は た く さ ん の 歌 が 群 れ て いる 。自 分 で 歌 は ず と も も 、聞 い て いる だ け で そ の 当 時 の 自 分 を 思 い出 す こ と を 皆 さ ん 経 験 が あ る と 思 う 。高 齢 者 の み な さ ん 、お お いに 歌 って リ ボ ー ンし ま し ょう 。

二 時 間 の 高 齢 者 講 習 受 講 せ り 白 髪 頭 あ り は げ 頭 あ り                                 
                      朝 野 ク ウ ー

 わ た し も ついに 高 齢 者 の 仲 間 入 り を し た 。自 身 は 高 齢 者 で あ る こ と を 特 に 意 識 し て は いな いが 、社 会 制 度 は 、個 人 の 思 いに は 関 係 な く 、年 齢 で 括 って 、統 計 を 取 り 行 政 と いう シ ス テ ム に 嵌 め て 「社 会 政 策 」を 行 う 。そ の 政 策 に よ って 守 ら れ て いる の は そ の と お り だ 。し か し 、 今 の 高 齢 者 は 一 昔 前 の 高 齢 者 と 比 べる と 至 って 元 気 で あ る 。昔 は 大 人 と 子 供 の 概 念 し か な か った が 、経 済 が 発 展 し た 現 代 は 「モ ラ ト リ ア ム 」世 代 (猶 予 世 代 )の 存 在 が 大 き い。平 た く 言 え ば 「ビ ー ト ル ズ 世 代 」以 降 、7 7 歳 以 降 か ら の 世 代 だ 。「ビ ー ト ル ズ 世 代 」は 学 生 運 動 の 世 代 で 、現 在 も 各 分 野 で バ リ バ リ 現 役 で 活 動 し て い る 世 代 で あ る 。 
         
 ■ 次 回 歌 会 一 月 十 日 ( 土 ) 午 後 二 時  
      仙台マンション

10月歌会 とぽす会員作品・鑑賞

【十月歌会の作品鑑賞】         朝野クウー
     

旅立ちの日にはきまって雨が降る 嬉し泣きであれよこの町                   梨本卓也                                                   

 雨は泣くに掛けていると考えられる。結句の「この町」をどう解釈するかで、歌の意味が異なって来る。今まで作者が住んでいた〇〇町と理解すると、〇〇町が、作者さんが転出するのを嬉しがって欲しいと解釈できると云う意見がありました。そうでなくて「この町」を、新居を構える転出先の町と理解すると、作者が引っ越してくることを嬉しがってほしいと作者自身が思っていると解釈できるので、そこをどう解釈するかで異なります。

 クマだって生きる権利があるものをオオカミ同様はく製なるか                  遊 心    
                                  
最近、クマが、ヒトが住む領域に出没して被害を出しているニュースを頻繁に聞く。その理由としては、森の木の実が夏の極暑のため不足したこと、クマとヒトの領域の緩衝地帯の里山にヒトが進出していること、廃棄食品の味を覚えた、などなど。はたしてクマの個体数が増加しているのだろうか。

下の句にあるオオカミはく製は個体が減少して絶滅したのであるから、上の句のクマの件とはリンクしない。ヒトのいるエリアをクマに知らしめる道端の草木を刈り払う「ゾーニング」が出没対策に有効らしいが、街中で生きる「アーバンベア」を防ぐのは難しい

からからと風に吹かれてさいかちのさやの鳴るとき祖母よみがへる               丹取 元                              
                                                                 
初句から四句までが次々と重なりながら、結句の祖母よみがえるに収束する流麗な歌だと感じた。オノマトペ「からから」は「鳴るとき」に掛かる。さいかちの「さ」と「さや」の「さ」は韻を踏んで気分を盛り上げるのに貢献する。「さいかち」の単語も興味をおこさせる。むかしは、石鹸がわりに用いられたことを聞いて感心した。むかし話にもなっており祖母の存在感に繋がっている。

 

絶滅を予感の繁栄かもしれず豊漁のサンマ噛みしめて食う                   笹谷逸郎    
                                
歌の意味から考えて気になったのは字句である。「繁栄」は「反映」と思う、そうだとすれば「絶滅を」ではなく、「絶滅の」ではないだろうか。反映しているのはなにか? (豊漁の)サンマを食う。「噛みしめて」に深い意味が込められている。たまたま今年は日本近海で豊漁だったが、来年も豊漁とは限らない。だから、今、目の前のサンマを味わい噛みしめておこうとなる。この歌は単なる食の歌ではなく地球環境を想定した歌と言えよう。

 

久々にジャガ芋顔の青年のいあう昔はみんなジャガ芋だった                   朝野クウー                        
                                 
世代により体格、顔の輪郭はその時代を反映している。とくに食生活、生活様式に深く影響する。むかしは一般的に食品は固く顎が発達した。正座の文化から椅子の文化になり、脚が長くなった。

9月歌会 とぽす会員作品・鑑賞

【九月歌会の作品鑑賞】   朝野クウー

     

地球とふ空気に満つる異世界へ卵をあまた生みたるソーダ              梨本卓也                         

 初期の地球大気は水蒸気、二酸化炭素、窒素などが主成分で、O2という分子形態での酸素は殆ど無かった。O2は、光合成する生物が出現して二酸化炭素CO2からO2が分離され、急激に増加した。ソーダ水のなかのCO2は異世界となってしまった地球を原始の昔に戻そうともがいているのかも知れない。

 

非常にはノビルやハコベイノコヅチアザミスカンポ雑草うまし              遊 心                           

東日本大震災の時は、八百屋、スーパー、コンビニが閉店し食べる物に窮した。しかし、先の大戦後の数年間は、大震災時以上の飢餓状態だった。多くの日本人が食べられる雑草をおかゆに混ぜて飢えをしのいだ。この先人の苦労と知恵を思い起こさせてくれた。

養蚕に母の紡ぎし絹二反折々手触れて懐かしむなり 
                        森 てい子

 養蚕、製糸はかつて宮城県の主要産業であった。養蚕農家では自ら糸を紡ぎ反物を織る人もいた。作者はそのような家に育ち親の営みを朝に夕に見ていたことだろう。手許に残る絹織物は作者の母が手織り機で丹念に織り上げたもの。作者がそれを手に取り、懐かしんでいる様が見える

五六本へちまの下がる子正しい折の波板ガラスに時空がゆがむ                     朝野クウー                                        

明治以降の俳句、短歌に対して大きな影響を与えた正岡子規。その最後の住いとなった東京根岸の旧居が子規庵として保存公開されている。子規の命日は糸瓜忌とも言われるので、へちまを植えていたのであろう。波板ガラスは空間を歪ませて見せるが、「時」が入った事で作者の場面没入感を感じさせた

 日に三度飯にありつく幸せをかみしめながら目刺しを食らう                          丹取 元 
                                          
イワシの目刺しは頭から食べればタンパク質やカルシウムが豊富で理想的な副食だ。これに、ご飯、味噌汁、お新香があれば何の不足があるものか。美食や飽食がいまだに話題になる昨今この歌の意味を改めて噛みしめてみたいものだ。

猛烈な日差しの下をひとり行くこの俺まさか男の日傘 
笹谷 逸朗        
                                      
  このところの猛暑は空前絶後だ。女性用と思われていた日傘を男性も使うようになった。この作品の味噌は「まさか・・」にある。古いジェンダー感をふっきれていない作者の社会感覚が見えてくる。