若き日の夢はぐくめる故郷の山川今日も忘れがたかり 森 てい子
幾つになっても生まれ育った故郷のことを忘れることはありません。ましてや遠く離れておればおる程、慣れ親しんだ山川は懐かしく思い出されます。「夢はぐくめる」に、若かりし日の作者の姿が偲ばれます。
忍耐とあるペン立て買えば空光る修学旅行の東京タワーに 朝野 クウー
ペンたての「忍耐」という言葉が作者をひきつけたのであろうと思料します。修学旅行のあとには熾烈な受験競争に臨むことになるであろう。東京タワーが効いている。
還暦は遠に過ぎゆきて厄年と関係もない安定に生く 若柳 遊心
還暦はとっくに過ぎてしまった今、厄年などと町の言うことはもはやどうでもいいのだと達観している作者。これからはどのような事が起こっても動じることなく心穏やかに生きるとの心意気がいい。
寒つばき雪のおもさを受けて咲く花弁の赤に添ひて青空 守屋 りょう
雪を被って咲いている寒椿の様子を「雪の重さを受けて」と表現した点に注目した。花弁の赤さと空の青との対比もよく、観察の行き届いた叙景歌になっている。
ブックオフ何処へ行ったか解体のビルの囲いを眺めため息 笹谷 逸郎
街の風景が突然変わってしまうことがよくあります。ビルの解体の仮囲いを前にしてため息をついている作者。「ブックオフ何処へ」の具体的な表現が既視感を伴い、歌に力強さを持たせている。
晴れた朝つもった道を雪わたりガキ対象がまっさき落ちる 飯土井 智絵
ワイワイ囃したてながら雪原に遊ぶ子供たちの姿を彷彿とさせる歌である。ガキ大将が中心となって纏っていた子供たちの世界が消滅したことを、ある意味で惜しむ。「雪わたり」の言葉が懐かしい。
「子孫には付けを残さぬ」豪語すもすでに残せる放射性廃棄物 原田 奈津子
「子孫に付け」の最たるものが、放射能核廃棄物の存在であることは自明のこと。言葉を都合よく使い、肝心なことからは目を逸らせようとする為政者の欺瞞をはっきりと見定めておきたいと思う。
冬枯れの葉を落ずに芽吹き待つくぬぎの木立いたく侘しも 丹取 元
櫟の木は枯葉を纏ったまま冬を越します。やがて春の兆しが感じられる頃になると、いつの間にか裸木となっています。その様な櫟の姿がとても侘しく感じられるのです。
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