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5月歌会 作品・鑑賞

5月歌会 作品・鑑賞 (朝野クウー)

風に舞うさくらの花のその下で少年二人踊りはじめつ       森 てい子

  風、桜、踊り、とポエジーな単語が並んでいます。八人中五人の選を取れたのもそこに理由があると思います。短歌・俳句は 「traditional short poem」 です。情景が目に浮かびます。夢の中に展開される少年二人の踊り、現実の花見の場面で繰り広げられる光景とも考えられます。いづれにしてもなんとも気分の良い光景ではありませんか。

   

大槌の雲がクマとなり雨を呼べ七日も燃える山火事消える  若柳 遊心

 先日の岩手県の山火事を題材にしてユニークな発想の作品ができました。面白いところを取り出すと、雲がクマとなる、は今話題のクマの出没を連想しますが、この場面のクマはいわゆる街中に現れるアーバンベアではありません。人を恐れて山中で生きているクマです。雨を呼べ、は命令形なので意味的には、クマよお前が暮らしている山の平穏を取り戻すための雨を呼べ、となります。街中に出没にするクマだけがニュースになっていますが、これまでの生き方を貫いているクマの存在に気づかされた一首です。


船旅はどこへ行くのか天国か老いのホームと笑う人おり        守谷 りょう

 作者の実体験から生まれた歌とのこと。船旅は日程を十分に取ってゆっくり進むので忙しく働いている現役世代の参加は確かに難しい。客船の人は当然リタイアした人となるからある意味、海に浮かぶ老人ホームと言える

 

これこそが輝きの声久々に都はるみを聞く春の午後          笹谷 逸郎

 令和の時代の音楽はネット配信が主流となり様々なジャンルの音楽が交錯する。その中で演歌はラジオやレコードに象徴される昭和を代表する。戦後、貧困から抜け出して高度経済成長するあたりまで日本人は演歌とともにエネギッシュにそんな時代を駆け抜けた。わたしの父は三橋美智也とか春日八郎の曲をよく聞いていた。都はるみ(昭和二三年生まれ)はそのあとの歌手だ。「アンコ椿は恋の花」が代表曲でこぶしをぐいぐい回す歌いぶりは気持ちが良い。社員旅行で行った伊豆大島を思い出した。

 

五月冷え一日置きの雨支度帰りの荷物がさらに重たい       飯土井 智絵

 「五月冷え」は造語ですが、俳句では「花冷え」「春寒」「余寒」があり、いづれも立春後の一時的な冷え込みを表す季語があります。雨天の時は寒さのため上着のほかにコートを着込んだりする。雨が上がると、買い物に加えて傘一本あるだけでも荷物となり疲れてしまいます。

 

身まかりて幾年を経しこの春も挽歌のごとく桜咲き継ぐ        柏原  ヒサ子

 良人(と思われます)が逝ってからしばらく経ってまた今年も桜の季節が巡ってきた。「挽歌のごとく」が無くても挽歌になっているわけですが、敢えてこの語句を入れることで挽歌を強調している。言い換えれば、「入れ子=マトリョーシカ」構造に作られていると言える

 

こんなにも面倒臭い世の中に生まれてくれてありがとさんね     丹取 元

 一見何でもないシンプルな歌と取られますが、ひと呼吸して読んでみるといろいろ疑問が出てきます。誰がだれに対して言っているのか、次に読み手に考えさせる短歌として「面倒くさい」があります。しかも「こんなにも」の修飾語を加えています。全体的に堅苦しくなる気分を結句の「ありがとさんね」が和らげています。

               

ワンテンポ遅れて笑う君が好きそんなオレってなんか変かな    朝野 クウー

あらゆるものが、視点、タイミングをずらすことによって異なる様相が浮かび上がってくる。ワンテンポ遅れて笑う君が笑っている対象は、みんなが笑っていることに対してではなく、笑っているみんなだと感じた。いわゆる嘲笑の時もあれば、自嘲のときもある。そう考えるわたしは考え過ぎでしょうか。